ネジのピッチとは?並目と細目の違いから測り方、使い分けまで解説
ネジの性能を左右する「ピッチ」は、強度や緩みにくさ、作業性に直結する重要な要素です。本記事では、ピッチの定義やリードとの違い、並目と細目の特性比較、正しい測定方法や表記規格を解説し、用途に応じた最適なねじ選定のポイントをまとめています。

ネジは、あらゆる製品の締結に不可欠な部品ですが、その性能を最大限に引き出すためには「ピッチ」の理解が欠かせません。同じ直径のネジでも、ピッチが違うだけで締結強度や緩みにくさ、作業性は大きく変わります。
設計や購買、製造の現場において、このピッチの違いを正しく理解し、目的に応じて使い分けることは、製品の品質と信頼性を左右する重要なポイントと言えるでしょう。本記事では、ネジのピッチに関する基本的な定義から、メートルねじにおける「並目」と「細目」の具体的な違い、正しい測定方法、そして適切な使い分けのポイントなどを解説します。
ネジのピッチとは

ネジの性能を理解するうえで、ピッチという概念は欠かせません。ピッチはねじ山の間隔を示す重要な要素であり、締結力や使用感に大きく関わります。ここでは、ピッチの定義とリードとの違いについて解説します。
・ピッチの定義
ネジのピッチとは、隣り合うねじ山の中心から中心まで(あるいは谷の中心から中心まで)の距離を指します。メートルねじの場合、この距離はミリメートル(mm)単位で表されます。
ピッチが小さい(細かい)ほど、一定の長さにおけるねじ山の数は多くなります。この物理的な形状の違いが、締結強度や緩みにくさといった、ネジが持つ機械的な特性を決定づける根源的な要素となります。
・ピッチとリードとの違い
ピッチとよく似た用語に「リード」があります。これは、ネジを1回転させたときに、ネジが軸方向に進む距離のことです。私たちが普段目にする一般的なネジは、1本のつる巻き線が螺旋を描く「一条ねじ」であり、この場合は「ピッチ」と「リード」は同じ値になります。
一方で、2本以上のつる巻き線が平行して螺旋を描く「多条ねじ」も存在します。例えば二条ねじの場合、リードはピッチの2倍(リード=ピッチ×2)となります。多条ねじは、少ない回転数で素早く大きな移動距離を得たい場合に用いられ、カメラのレンズ鏡筒の繰り出し機構や、瓶の蓋などにその例を見ることができます。
ねじピッチ表
以下に、メートルねじの呼び径ごとに定められた、並目ピッチと細目ピッチの代表的な一覧表を掲載します
| ねじの呼び | ピッチ 並目 | ピッチ 細目 |
| M2 | 0.4 | 0.25 |
| M2.3 | 0.4 | – |
| M2.6 | 0.45 | – |
| M3 | 0.5 | 0.35 |
| M3.5 | 0.6 | 0.35 |
| M4 | 0.7 | 0.5 |
| M5 | 0.8 | 0.5 |
| M6 | 1.0 | 0.75 |
| M8 | 1.25 | 1.0 |
| M10 | 1.5 | 1.25 |
| M12 | 1.75 | 1.25 1.5 |
| M14 | 2.0 | 1.5 |
| M16 | 2.0 | 1.5 |
| M18 | 2.5 | 1.5 |
| M20 | 2.5 | 1.5 |
| M22 | 2.5 | 1.5 |
| M24 | 3.0 | 2.0 |
| M27 | 3.0 | 2.0 |
| M30 | 3.5 | 2.0 |
| M33 | 3.5 | 2.0 |
| M36 | 4.0 | 3.0 |
| M42 | 4.5 | 4.0 |
| M45 | 4.5 | 4.0 |
| M48 | 5.0 | 4.0 |
| M52 | 5.0 | 4.0 |
メートルねじにおける「並目」と「細目」の比較
並目ねじと細目ねじは、それぞれに異なる特性を持っています。用途に応じて適切に使い分けるために、両者のメリット・デメリットを比較してみましょう。
| 特性項目 | 並目ねじ | 細目ねじ |
| 緩みにくさ | △(標準) | ◎(優れる) |
| 引張強度 | ◯(標準) | ◎(優れる) |
| ねじ山の強度 | ◎(優れる) | ◯(標準) |
| 微調整のしやすさ | △(不向き) | ◎(優れる) |
| 締結作業性 | ◎(優れる) | △(劣る) |
| 入手性・コスト | ◎(容易・安価) | △(比較的困難・高価) |
| かじり・焼き付き | ◯(標準) | △(注意が必要) |
・並目ねじ(標準ピッチ)の特徴とメリット
並目ねじは、JISで定められた呼び径ごとに一つの標準ピッチを持つねじで、もっとも広く流通している形式です。特別な理由がない限り、多くの設計や締結に使われるのがこの並目ねじです。
メリットの一つは、手軽に入手できる点です。ホームセンターから専門業者向けのルートまで、あらゆる場所で容易に手に入り、価格も比較的安価であるため、コスト面でも扱いやすい存在といえます。
また、ねじ山が高く谷が深い形状をしているため、食い付きが良く、ねじ山そのもののせん断強度に優れています。そのため、繰り返しの着脱や、やや荒く扱われる場面でも安定した使用が可能です。締結作業性にも優れており、短時間で確実に固定できる点は作業効率を高める要素となります。
・細目ねじ(細ピッチ)の特徴とメリット
細目ねじは、並目ねじと同じ呼び径でもピッチがより細かく設定された形式です。最大の特長は緩みにくさで、リード角が小さいためセルフロック性が高く、振動や衝撃を受けやすい箇所でも締結が安定します。
また、1回転で進む距離が小さいため、精密な位置調整が求められる部品に適しています。たとえば、アジャスターボルトや微調整機構を備えた部品などでは、細目ねじが選ばれることが多いです。
さらに、谷径が太くなることで断面積が広がり、引張強度が高くなる点も特徴的です。薄板への締結においても、多くの山を噛ませることができるため、確実性の高い固定が可能となります。
ねじのピッチに関する規格と表記方法

ネジは世界中で使われる部品ですが、その規格や表記方法には大きな違いがあります。特にピッチの示し方は、メートルねじとインチねじで大きく異なります。ここでは、それぞれの表記方法と注意点について解説します。
・メートルねじの表記
JIS規格におけるメートルねじの表記では、並目ねじの場合に限り、ピッチの表記を省略できるというルールがあります。例えば、図面や注文書に「M10」とだけ書かれていれば、それは並目ピッチ(1.5mm)を指すものとして扱われます。
一方、細目ねじの場合は、必ず呼び径に続けてピッチを併記しなければなりません。直径10mmでピッチが1.25mmの細目ねじであれば、必ず「M10×1.25」と表記します。図面の作成や部品の発注を行う際には、細目ねじのピッチ表記を絶対に省略しないよう、十分な注意が必要です。
・インチねじ(ユニファイねじ)の表記
海外、特に米国で設計された機械や設備を扱う際には、インチねじの知識が不可欠です。メートルねじが山と山の「距離」でピッチを表すのに対し、ユニファイねじでは「1インチ(25.4mm)あたりのねじ山の数(TPI: Threads Per Inch)」でピッチを表現します。
ユニファイねじにも並目(UNC: Unified Coarse)と細目(UNF: Unified Fine)が存在します。例えば「1/4-20 UNC」と表記されていれば、それは「直径1/4インチで、1インチあたり20山(ピッチ約1.27mm)の並目ねじ」を意味します。メートルねじとは規格が全く異なるため互換性はなく、混用すると重大な事故に繋がる恐れがあります。
ねじのピッチを測定する方法
ネジを交換したり追加で発注したりする際、正しいピッチを把握していないと適合しない部品を選んでしまう危険があります。特に規格や寸法が異なる場合は重大な不具合につながるため、測定方法を理解することが大切です。ここでは、代表的な測定手順を解説します。
・手元にあるネジのピッチが不明な場合
手元にあるネジのピッチが不明な場合、最も確実かつ正確に測定できる工具が「ピッチゲージ」です。これは、様々なピッチのねじ山形状が刻まれた薄い金属板(ブレード)が束になった工具です。
<測定手順>
- 対象のネジに合いそうなブレードを選び出します。
- ねじ山に隙間なくぴったりと当てがい、光にかざして光が漏れないかを確認します。
- 隙間なく完全に一致すれば、そのブレードに刻印されている数値が、そのネジのピッチとなります。
メートルねじ用とインチねじ用は別物ですので、測定の際には間違えないよう注意が必要です。
・ピッチゲージがない場合
あくまで緊急用・参考用の方法となりますが、ノギスや精度の高い定規でもピッチを測定することは可能です。
<測定手順>
- ねじ山の頂点から頂点まで、ちょうど10山分の長さをノギスなどで測定します。
- その測定値を10で割ることで、1山あたりの平均ピッチを算出します。
1山だけを測定すると誤差が大きくなるため、複数山をまとめて測定し、その値を平均化するのがポイントです。ただし、この方法ではピッチの差がごくわずかな細目ねじなどを正確に特定するのは困難な場合があります。
ネジのピッチに関するよくある質問(Q&A)
ネジのピッチは正しく理解していないと、破損や不具合などの思わぬトラブルを招きます。特に実務の現場では、誤解や思い込みによるミスが生じやすい部分です。ここでは、よくある質問を取り上げて具体的に解説します。
Q. ピッチが違うねじ同士を無理に締め付けるとどうなりますか?
ピッチの異なるおねじとめねじを無理に締め付けると、双方のねじ山が互いを削り合い、破壊されてしまいます。この状態は「ねじ山の潰れ」や「むしれ」と呼ばれ、進行すると摩擦熱で金属が融着する「焼き付き(かじり)」という現象を引き起こす可能性があります。
一度この状態に陥ると、規定の締結力が得られないばかりか、取り外しも極めて困難になり、最悪の場合は部品ごと交換が必要になります。
Q. 緩み止め対策として、細目ねじの選定はどの程度有効ですか?
細目ねじは、並目ねじに比べて緩みにくい特性を持つため、有効な選択肢の一つです。これは、ねじの螺旋の角度が小さくなることで、摩擦によるセルフロック性が高まるためです。ただし、細目ねじだけで全ての緩みを完全に防げるわけではありません。
より高い信頼性が求められる箇所では、緩み止めナットや特殊な座金、ねじロック剤といった専用の対策を組み合わせることが推奨されます。
Q. 発注時にピッチを指示しなかった場合、どうなりますか?
ねじ業界の商慣習として、メートルねじの発注時にピッチの指示がない場合、それは「並目ねじ」として扱われるのが一般的です。もし細目ねじが必要だった場合、意図しない部品が納品されることになります。
これが組立工程で発覚すると、手配のやり直しで時間をロスし、生産計画に影響を及ぼすリスクがあります。トラブルを未然に防ぐためにも、細目ねじを発注する際は、必ず図面や注文書にピッチを明記する必要があります。
まとめ
ネジのピッチは、強度や緩みにくさ、作業性に直結する重要な要素です。並目と細目の特性の違い、正しい表記や測定方法を理解すれば、用途に応じた適切なねじ選定が可能になります。
並目と細目の使い分けや、緩み止めを目的とした細目ねじの選定、あるいはインチねじとメートルねじの正確な見分け方など、適切な部品を選定するためには専門的な知識と豊富な経験が欠かせません。
当社は製造・商社・物流を一貫して担っており、多岐にわたる規格の中からお客様の用途に最適な製品をご提案することが可能です。製品選定や加工方法でお困りでしたら、ぜひ一度ご相談ください。
製造現場では、金属や樹脂といった素材を目的の形に加工することで、多様な製品や部品が生み出されています。その中核を担うのが「機械加工」です。ここでは、代表的な工作機械の種類とその役割について解説します。
