【ボルト ナット】

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ねじの研究室

【ボルト ナット】

ボルト・ナットとは?種類・規格・材質から選定ポイントまで徹底解説

ボルトとナットは機械や構造物を支える要の締結部品です。基本の違いと代表的な種類を押さえたうえで、寸法・材質・強度区分・表面処理といった選定の勘所、現場で起こりやすい課題と対策、実例までを通して理解を深めます。ここでは要点をわかりやすく解説します。

ボルトとナットは身近な家具から産業機械まで、あらゆる場面で使われている締結部品です。一見すると単純な金属部品のように思えますが、実際には寸法や材質、規格、強度といった多くの要素が絡み合い、安全性や耐久性を大きく左右します。

適切な種類を選定し、正しく組み合わせて使用することが、安定した構造と高い信頼性を実現するための条件です。本記事では、ボルトとナットの基本的な違いから主な種類、選定のポイント、さらに現場で起こりやすい課題までを解説します。

ボルト・ナットの違いとは

ボルトとナットは一見シンプルな部品でありながら、産業や日常生活を支える基盤となっています。まずは、ボルトとナットの基本的な違いについて解説します。

・ボルトとは

ボルトは外側にねじ山を持つ「おねじ」の総称で、複数の部材を締め付けて固定するために用いられる部品です。最も一般的な六角ボルトをはじめ、工具を使わずに手で締められる蝶ボルト、荷重を吊り下げるためのアイボルトなど、用途や環境に応じたさまざまな種類があります。

ボルトを適切に機能させるには、ナットとの組み合わせが前提です。呼び径やピッチが一致していなければ、正しく締結できないだけでなく、破損や事故につながりかねません。そのため、JISやISOといった国際的な規格によって寸法や品質が統一されています。

・ナットとは

ナットは内側にねじ山を切った「めねじ」部品で、ボルトと組み合わせて使用することで締結力を発揮します。最も身近なのは六角ナットですが、先端を保護する袋ナットや、緩みを防ぐためにナイロンを組み込んだナイロンナット、締め付け面を広く確保するフランジナットなどさまざまな種類が存在します。 緩み止め機能付きナットを用いるケースも多く、安全性や信頼性を高める手段として選ばれています。ナットはボルトと対になる存在であり、両者を正しく理解し組み合わせることで、安定した構造を実現できるのです。

主なボルトの種類

ボルトには、形状や用途に応じて多様な種類があります。ここでは代表的な4つの種類を解説します。

・六角ボルト

頭部が正六角形をしており、スパナやレンチといった工具を用いて大きなトルクをかけ、確実に締め付けることが可能なボルトです。JIS B 1180で規格が定められており、市場での流通量が最も多く、安価で入手しやすいというメリットがあります。

汎用性の高さから、建築、土木、各種産業機械、自動車関連など、あらゆる分野で広く使用されており、締結部品の基本と言えるでしょう。

・六角穴付きボルト

円筒形の頭部の中心に六角形の穴があり、六角レンチを差し込んで締め付けるタイプのボルトです。頭部を部材に埋め込む「ザグリ加工」を施すことで、締結後も部品の表面に突起が出ないフラットな状態に仕上げることが可能です。

六角ボルトと比較して頭部が小さいながらも高い締結力が得られるため、省スペース化が求められる金型や精密機械、産業用ロボットなどで多用されています。

・アイボルト

頭部がリング(アイ)形状になっている特殊なボルトで、リング部分にワイヤーやシャックルなどを通し、物体を吊り上げたり、吊り下げて固定したりするために用いられます。建設現場での資材の吊り上げや、工場内での重量機械の搬送など、重量物を安全に取り扱うことが求められる場面で広く使用されています。

リング部分には360度さまざまな方向から荷重がかかる可能性があるため、高い強度と信頼性が要求されます。

・蝶ボルト

蝶ボルトは頭部が羽のような形状になっており、工具を使わず手で簡単に締め付けや取り外しができるボルトです。頻繁に着脱を行う機構や、工具を持ち込めない環境で特に重宝されます。例えば、展示会のブース設営や、機械のカバー部品の固定、照明器具や家具の調整など、短時間での組み立てや調整が求められる場面に多く用いられています。

工具が不要である一方、強いトルクをかけるには不向きなため、高い締結力よりも利便性を重視する用途に適しています。素材には鉄やステンレスに加え、樹脂製のものもあり、使用環境や目的に応じて選ぶことが可能です。

主なナットの種類

ナットはボルトと組み合わせて使用される締結部品で、形状や機能によって多彩な種類があります。ここでは代表的なナットの種類について解説します。

・六角ナット

ボルトと組み合わせて使用される、最も一般的で基本的なナットです。JIS B 1181で規格化されており、主に3つの種類に分類されます。

  • 1種:片側のみに面取り(角を削る加工)が施されている、最も標準的なタイプ
  • 2種:両側に面取りが施されており、スパナなどの工具がかかりやすく、裏表を気にせず使用できるため作業性に優れている
  • 3種:1種よりも高さが低い(薄い)のが特徴。スペースに制約がある場合や、緩み止め対策として二つのナットを締め付ける「ダブルナット」の下側ナットとして主に使用されている

・袋ナット

ナットの片側がドーム状のキャップで覆われた形状をしています。締結後、ボルトのねじ先端が外部に露出しないため、ねじ山を錆や物理的な損傷から保護する効果があります。

また、突出したねじの先端に人や物が触れて怪我をしたり、製品を傷つけたりするのを防ぐ安全対策としても非常に有効です。外観が滑らかで美しく仕上がるため、装飾性が求められる箇所にも多く用いられます。

・フランジナット

ナットの下部に、座金(ワッシャー)と一体になったような広いツバ(フランジ)が付いているのが特徴です。このフランジによって接地面積が広がるため、座面圧を効果的に分散させ、締め付け時に相手材が凹んだり傷ついたりするのを防ぎます。

座金を別途用意する必要がないため、部品点数の削減と作業効率の向上に貢献します。フランジ面にギザギザ(セレート)が付いたタイプは、食い込みによる回転防止効果が期待できます。

・アイナット

アイナットは、頭部がリング状になっためねじタイプのナットで、ワイヤーやフックを通して重量物を吊り上げたり固定したりするために使われます。JIS B 1169で規格化された吊りナットの一種であり、アイボルトがおねじであるのに対し、アイナットはめねじである点が大きな違いです。

工場や建設現場では、重量機械や資材の設置・移動の際に用いられ、安全性と信頼性が求められる用途に適しています。標準サイズから大型のM40以上まで豊富に規格化されており、用途に応じた選定が可能です。

・蝶ナット

蝶の羽のような形状のつまみを持ち、工具を使わずに手で簡単に締め付けや取り外しができるナットです。蝶ボルトと同様に、頻繁な調整や簡易的な固定が必要な箇所で広く利用されています。

強い締め付け力を得ることはできませんが、利便性の高さが大きな特長と言えるでしょう。

ボルト・ナット選定に必要な要素

ボルトとナットを正しく選ぶことは、安全で安定した締結を実現するために欠かせません。寸法や材質、強度区分、表面処理といった要素を理解し、用途に合った部品を選定することが重要です。

ここでは選定に必要な基本要素を解説します。

・寸法と規格

ボルトとナットを選定する上で、まず基本となるのが寸法の適合性です。呼び径(直径)、ピッチ(ねじ山の間隔)、そしてボルトの長さを正確に把握し、JISやISOなどの規格に基づいて適合させることが大切です。

規格では、単なる寸法だけでなく、機械的な許容差やねじの嵌め合いの精度(クラス)も定められており、締結部の耐久性や耐振動性能に直接影響します。特にボルトの長さは重要で、本締め時にボルトばねのように伸びることで締結力を生むため、長さが不足すると十分な締結力が得られない可能性があります。

・材質

ボルトとナットの材質は、使用される環境や求められる強度によって慎重に選定する必要があります。一般的にはコストと強度のバランスが良い低〜中炭素鋼が広く使われますが、より高い強度が求められる場合や、高温・低温環境下では、特殊な元素を添加した合金鋼やステンレス鋼が用いられます。

また、使用環境に応じた耐食性の確保も重要なポイントです。例えば、沿岸部や化学薬品に晒される環境では、ステンレス鋼(SUS304/A2、SUS316/A4など)や、さらに高性能な特殊合金の採用が、部品の強度と安全性を長期的に確保する上で基本となります。

・強度区分

ねじの「強度区分」は、その部品がどれだけの荷重に耐えられるかを示す重要な指標です。鋼製のボルトには、例えば「10.9」のように数字で強度区分が表記されています。この場合、左側の数値「10」は公称引張強さ(1000 N/mm²)を、右側の数値「9」は降伏点が引張強さの90%であることを示します。

ボルトとナットは、この強度区分が適合するものを正しく組み合わせる必要があります。強度の低いナットに高強度のボルトを組み合わせるなど、誤った選定は緩みや破断といった重大な不具合に直結するため、規格に基づいた適切な選定が必須です。

・表面処理

ボルトやナットには、耐腐食性や耐摩耗性の向上、あるいは美観を目的として、めっきなどの表面処理が施されることが多くあります。特に、屋外や水回りなど湿気が多い環境、塩害が懸念される地域で使用する場合、適切な表面処理は錆を防ぎ、部品の耐久性を確保する上で非常に有効です。

一方で、表面処理の種類によっては、ねじ面の摩擦係数が変化し、締め付けトルクと発生する軸力(締結力)の関係に影響を与える可能性があります。そのため、設計段階でどの表面処理を施すか、効果と影響を考慮に入れることが重要です。