ねじのゆるみはなぜ起こる？2つの原因とゆるみ止め対策を徹底解説
ねじの緩みは振動や温度変化、材料特性など複雑な要因によって発生し、性能低下や事故の原因となります。本記事では、回転ゆるみ・非回転ゆるみの仕組みを整理し、ナット・ワッシャー・接着剤・ダブルナットなど多様な緩み止め対策を具体的に解説します。
・ねじがゆるむ原因
①回転ゆるみ
回転ゆるみは、ねじの締結部に外力が繰り返し加わることで生じる現象です。特に軸と直角方向からの振動や衝撃は、ボルトとナットの接触面にごく小さな滑りを生み出します。滑りは一瞬のものであっても摩擦力を減少させ、締結時にボルトに蓄えられていた弾性エネルギーが解放されるきっかけとなります。
そしてねじがわずかに回転し、締め付け力が弱まる方向へ移動します。回転は目に見えるほど大きなものではなく、ほんの数度に満たない場合がほとんどです。しかし、振動が継続して加わる環境では、徐々に締結力が失われていきます。
つまり、最初は安定しているように見えても、運転時間が長くなるほど緩みは顕著となり、最終的には締結の役割を果たさなくなってしまいます。特に機械や構造物の安全性を確保する上で、この現象を理解し対策を講じることは非常に重要です。
②非回転ゆるみ
ねじ自体は回転していなくても、締結力が低下してしまう現象を「非回転ゆるみ」と呼びます。いくつかの種類があり、それぞれ発生メカニズムが異なります。
・初期ゆるみ
初期ゆるみは、ねじ締結後に部材表面の微細な凹凸が、高い締結荷重によって押し潰され、平坦になることで発生します。締結全体の長さがわずかに縮み、結果として軸力が低下する非回転ゆるみの一種です。
締結後の一定時間経過後に、所定のトルクで増し締め（再締め）を行うことで、軸力を回復させることが可能です。
・陥没ゆるみ
陥没ゆるみは、過大な締め付け力（オーバートルク）や、締結する部材の剛性が低い場合に、ボルトやナットの座面が部材にめり込み、塑性変形（陥没）することで発生します。
陥没によっても締結長さが縮み、軸力が低下します。適切な剛性を持つ材料の選定や、規定トルクでの正確な締め付け管理が有効な対策です。
・塑性変形ゆるみ
塑性変形ゆるみは、締結部に設計想定を超える大きな外力がかかったり、高温環境下で長時間荷重がかかり続けたりすることで、ボルト自体や被締結部材が降伏点を超えて永久変形（伸び）してしまい、軸力が低下する現象です。
ボルトや部材の塑性変形は、締結力の喪失に直結する非回転ゆるみの大きな要因となります。
・温度によるゆるみ
温度によるゆるみは、ボルトと被締結部材で材質が異なる（線膨張係数が違う）場合に発生します。温度が変化すると、それぞれの部材の膨張・収縮率が異なるため、締結部に歪みが生じ、軸力が変化します。
特に、高温になると部材が伸びて軸力が低下し、その状態で冷却されると、さらに軸力が落ちてしまう場合があります。
ねじのゆるみ対策
①ゆるみ止めナットを使用する方法
ねじのゆるみは機械や構造物の安全性を損なう大きな要因です。その中でも効果的な方法の一つが、専用に設計されたゆるみ止めナットを用いることです。ここでは代表的な種類と、それぞれの特徴について解説します。
・フリクションリングナット
フリクションリングナットは、ナット本体に組み込まれたリングの摩擦力を活用して回転ゆるみを防ぐ仕組みを持っています。代表的なものに ナイロンナットがあります。
ナイロンナットとは、樹脂製のリングがねじ山に食い込むように変形し、摩擦を生み出します。価格が比較的安価で作業性にも優れているため、多くの現場で採用されています。ただし樹脂部分は繰り返し使用することで摩耗しやすく、効果が低下する点に注意が必要です。
・皿ばね付きナット
皿ばね付きナットは座面に皿ばねが一体化されたタイプで、ばねの反力によって常に一定の軸力を与え続けることができます。主に部材のへたりや初期緩みによる軸力低下を補う役割を持ち、非回転型のゆるみに有効です。
振動を直接抑えるものではないものの、長期間にわたって安定した締結状態を維持する補助的な効果を発揮します。用途や環境に応じて適切に使い分けることで、ねじの緩みを防ぐ信頼性の高い締結が実現できます。
②ワッシャーを使用する方法
ねじの締結部を補強し、緩みを防ぐ手段として「ワッシャー」を利用する方法があります。形状や機能の異なる製品が存在し、それぞれ特徴や効果も異なります。ここでは代表的なワッシャーの種類と作用について解説します。
・ばね座金（スプリングワッシャー）
平座金の一部を切り起こしたコイル状の形状を持つ、最も広く使われている緩み止め座金です。締め付けで平らに押し潰される際のばね反力と、切り口が相手材に食い込むことで緩みを防ぐとされています。
非常に安価で入手しやすいですが、軸力が低い場合にはその緩み止め効果は限りなく低いとの評価もあります。
・平ワッシャー（丸ワッシャー）
本来は、ボルト頭やナットの座面と被締結部材の間に挟み、接触面積を広げて座面圧を分散させたり、相手材の表面を保護したりすることを目的とした座金です。
直接的な緩み止めを意図したものではありませんが、摩擦係数を安定させることで、結果的に緩みの進行を多少抑制する効果がみられる場合もあります。
③接着剤・シール剤を使用する方法
ねじの緩みを防ぐ方法として、接着剤やシール剤を活用する手段があります。液状から固化する過程で隙間を埋め、摩擦や固着力を高める点が特徴です。ここでは代表的な2つの方法について解説します。
・嫌気性接着剤（ねじロック剤）
嫌気性接着剤は、ねじの隙間に充填されると空気が遮断され、金属との接触によって硬化する特殊な接着剤です。
空気中では液体のままですが、嫌気性環境になると化学反応を起こして樹脂化し、ねじ山の微細な隙間を完全に埋め尽くします。硬化した樹脂はおねじとめねじを物理的に固着させると同時に摩擦力を大幅に高めるため、振動や衝撃による緩みを強力に防止できるのが特徴です。
さらに、嫌気性接着剤には低強度から高強度まで幅広い種類があり、用途に応じて選択できる点も実用的です。低強度タイプは取り外しが必要な場合に適し、高強度タイプは恒久的な固定を必要とする場面で活躍します。
・プリコート処理（マイクロカプセルタイプ）
プリコート処理は、ねじの製造段階であらかじめ緩み止め剤を塗布しておく方法です。エポキシ樹脂などを内包した微細なマイクロカプセルをねじ部に付着させ、実際に締め付けを行うと圧力によってカプセルが破壊され、中の薬剤が反応して硬化します。この硬化樹脂がねじ山の隙間を埋めることで摩擦力を増加させ、緩み止め効果を発揮します。
特徴は、作業者が現場で接着剤を塗布する必要がない点です。組立ラインの効率が向上し、品質のばらつきも抑えられます。また、あらかじめ処理されたねじを使用するため、製造プロセスが標準化され、製品全体の信頼性が高まります。
一方で、再利用は基本的にできず、一度使用したねじは交換が前提となる点に注意が必要です。
④物理的に回転を拘束する方法
摩擦力に頼るのではなく、ねじの回転そのものを物理的に止める方法も存在します。構造的に動きを封じるため確実性が高く、安全性を重視する部位で広く用いられます。ここでは代表的な方法を解説します。
・ダブルナット
ダブルナットは、一本のボルトに二つのナットを使って締め付ける方法です。まず下側のナットを固定し、その上からもう一つを逆方向に力をかけて締め込むことで互いに押し合い、ねじ山に摩擦が生まれます。この摩擦が回転を抑え、振動や衝撃を受けても緩みにくくなります。
古くから使われてきた方法で、特別な部品を必要としないためコスト面で優れています。しかし、効果を安定させるには施工手順の正確さが重要であり、作業者の技量によってバラつきが出やすい点が課題です。特に、適切な軸力管理が行われないと緩み止めの効果が十分に発揮されず、かえって信頼性を損なう可能性があります。
さらに、取り付けや調整に時間を要するため、大量生産の場では効率性の面で不利となることもあります。それでもシンプルかつ低コストであることから、用途や環境に応じて有効な手段として活用されています。
・割りピンと溝付きナット
割りピンと溝付きナットは、ナットの回転を物理的に阻止する強力な方法です。溝付きナットは外周に複数の切り込みを持ち、対応するボルトには横穴が設けられています。ナットを締め付けて溝と横穴を合わせ、そこに割りピンを差し込んで両端を折り曲げると、ナットは固定され回転できなくなります。
振動や衝撃が加わっても、割りピンが物理的にストッパーとして働くため、ナットが緩んで外れることはありません。このように最も確実な脱落防止方法の一つであり、フェールセーフの視点から絶対に外れてはいけない重要保安部品（自動車の足回りなど）に用いられます。
安全性を担保する点では優れていますが、軸力の低下そのものを防ぐ効果はないため、部材のへたりや伸びによる非回転型の緩みには対応できません。そのため、他の緩み止め手法と併用されるケースが一般的です。
まとめ
ねじの緩みは、機械や構造物の信頼性を大きく左右する重要な課題です。表面的にはしっかり締結されているように見えても、振動や温度変化、材質の特性など多様な要因が重なり合い、回転ゆるみや非回転ゆるみといった形で締結力は徐々に失われていきます。こうした現象を正しく理解しないまま対処を怠ると、重大な事故に至る危険性があります。
安全と品質を確保するには、原因を見極めたうえで、ナット・ワッシャー・接着剤・ダブルナットなど適切な方法を組み合わせ、使用環境に応じた最適な緩み止め対策を実施することが必要です。
当社は、設計段階から加工・締結方法の検討、部品供給に至るまで一貫して支援し、現場の課題に即した解決策をご提案しています。確実な締結と長期的な安定性を求める企業様は、ぜひ当社までご相談ください。
